国家公務員として働く刑務所看護師の仕事内容。募集の見つけ方や年収事情も知っておこう
病院やクリニックだけでなく、「刑務所」も看護師が働ける場所の一つです。
刑務所で働く看護師は刑務所看護師と呼ばれ、一般の看護師とは違った特徴があります。
「刑務所看護師って何をするの?」「どうやったらなれる?」「待遇は?」など疑問もあることでしょう。
本記事では、刑務所看護師とは何なのか、刑務所看護師の職場や仕事内容、メリット・デメリットについてご紹介します。
目次
刑務所看護師とは
刑務所看護師とは、刑務所などに勤務して受刑者に対して看護を行う看護師のことです。
体調管理やケガの処置はもちろん、精神疾患を持つ受刑者への看護も行います。
刑務所や少年院などの刑事施設は、病院や診療所機能を持ち、最低1人の正看護師が常勤配置されなければいけません。
病院・クリニック勤務の看護師との違い
刑務所看護師は、一般の病院やクリニック勤務の看護師とさまざまな点で違いがあります。
まず、常勤で働く刑務所看護師は法務技官看護師と呼ばれる国家公務員です。
法務技官とは、刑務所を所管している法務省にて採用される専門職員を指します。
ただし、パートやアルバイトなど、非常勤の看護師は国家公務員ではありません。
看護を行う際の形態にも違いがあります。受刑者に対して看護業務を行う場合は、刑務官が必ず立ち会うのがルールです。
刑務所看護師のみだと、受刑者から暴行を受けるなどの恐れがあるため、1対1になるのを避けます。
また、看護対象となるのはすべて受刑者です。
そのため、病院・クリニックのように患者さんとコミュニケーションを通して人間関係を構築するようなことはほぼありません。
「公務員」として働く看護師には、役所で働く看護師なども含まれます。
公務員看護師にご興味のある方は、こちらも参考としてご一読してみてください。
関連記事:役所で働く産業看護師が行う仕事内容。どのような人が向いている!?
刑務所看護師として働ける職場
刑務所看護師として働ける職場には、以下の3つがあります。
一般刑務所
一般刑務所とは刑務所、留置所、少年院、婦人補導院などの矯正施設のことです。
矯正施設は、犯罪などをした人を収容し、更生のための教育や処遇を通して社会復帰を図るための施設です。
刑務所看護師は、被収容者たちが速やかに更生できるように、健康管理を行います。
医療重点施設
医療重点施設とは、医療を重点的に行う矯正施設です。
後述する医療刑務所と比べると専門的な設備は整っていませんが、一般刑務所よりも医療に重点が置かれています。
そのため、刑務所などの施設における急性医療の中核を担う施設といえます。
医療重点施設は全国に9箇所あり、そのうち刑務所は8箇所、拘置所は1箇所です。
医療刑務所
医療刑務所は、総合病院のような位置づけにある医療専門施設です。
医療重点施設よりも専門的な設備が整っています。
一般刑務所や医療重点施設では対応が困難な被収容者を収容し、急性期・回復期・終末期まで幅広い医療を行います。
被収容者に幅広く対応するため、対応する診療科目もさまざまあります。
医療機器や手術設備も整っているのが医療刑務所の大きな特徴です。
医療刑務所は2024年/11月時点で全国に4箇所のみです。それぞれの施設の特徴を以下にまとめます。
- 東日本成人矯正医療センター(東京都)と西日本成人矯正医療センター(大阪府)::専門的な医療処置が必要な被収容者を対象に、全身および精神科医療を行う施設
- 岡崎医療刑務所(愛知県)と北九州医療刑務所(福岡県):精神科医療を行う施設で、精神疾患や精神障害がある被収容者を対象にする。岡崎医療刑務所は男性のみ収容している
刑務所看護師の仕事内容
刑務所看護師の仕事内容は、一般刑務所と医療刑務所で違いがあります。
以下で、それぞれの仕事内容についてまとめます。
一般刑務所の仕事内容
一般刑務所では、被収容者の健康管理、体調不良やケガの処置などを行います。
一般刑務所には、医療刑務所のような専門的な医療設備はありません。
しかし、被収容者はストレスから不眠などの症状を訴えることが少なくないことから、体調管理などのケアがメインになるわけです。
その他にも、カルテ整理や必要な備品整理といった業務も行います。
医療刑務所の仕事内容
医療刑務所は専門的な機器が揃い、より高度な医療行為が必要とされる被収容者が集まるところです。
このことから、一般的な病院のような業務を行います。
たとえば、医師の診療や手術の補助、検査の介助、注射・点滴などです。
幅広く看護業務を行うため、一般病院で得たスキルや知識を活かしやすいでしょう。
また、治療途中の被収容者が出所する、または医療刑務所では対応できない医療行為が必要とされる被収容者に対して、転院手続きを行うこともあります。
刑務所看護師になる方法
刑務所看護師になるには、看護師免許の取得が必要です。
資格取得からすぐに働くケースは少なく、多くの場合は3~5年以上の看護経験が求められます。
また、刑務官・法務教官から刑務所看護師になる道もあります。
医療刑務所の准看護師養成所にて准看護師の資格を取得し、刑務所看護師として働くことも可能です。
就職・転職の注意点
刑務所看護師へ転職する場合、いくつか注意しておきたいことがあります。
一般刑務所や医療刑務所などに収容される被収容者にはさまざまな人がいます。
看護師求人では、それら被収容者を分類する「処遇指標」の記載がありますので、必ず確認しましょう。
たとえば、「A」は犯罪傾向が進んでいない者、「M」は精神疾患がある者、「L」は執行刑期が10年以上ある者のことです。
これらを確認し、どのような被収容者に対して看護業務を行うのか知っておきましょう。
刑務所看護師は国家公務員で施設の数も限られていることから、求人数は非常に少なく、非公開にて募集されることも少なくありません。
求人倍率も高い傾向にありますので、じっくり取り組むことが大切です。
刑務所は周囲に建物が少なく、最寄り駅・バス停が遠いような場所にあります。
これは、被収容者を隔離する必要があるためです。そのため、刑務所看護師の職場は通勤の便が悪いことを覚えておきましょう。
また、刑務所看護師は国家公務員であり、全国各地に転勤になることもあります。
刑務所看護師の収入事情
刑務所看護師は国家公務員であり、毎月の給与は30万円前後といわれています。
ボーナスも支給されますので、300~450万円程度の収入があると考えられます。
基本給や賞与以外にも、交通費や地方手当などの各種手当がつくこともあり、実際の年収はさらにもらえる可能性もあるでしょう。
国家公務員であるため、刑務所看護師は福利厚生面も充実しているのが特徴です。
刑務所看護師として働くメリット・デメリット
ここでは、刑務所看護師として働くうえで、どのようなメリットやデメリットがあるのかご紹介します。
メリット①収入が安定している
刑務所看護師は国家公務員であり、収入が安定しています。
勤務年数に応じて収入も上がっていきますので、離職率が低いのが特徴です。
一般の病院やクリニックと違って倒産するリスクもないため、収入に関して不安を感じることはほぼないでしょう。
また、国家公務員が利用できる施設も数多くあるなど、福利厚生も手厚いです。
メリット②コミュニケーションに自信がなくても働ける
刑務所などでは、看護師と被収容者が会話することは禁じられています。
たとえ診療に必要な質問であっても、付き添っている刑務官を通して行わなければなりません。
そのため、患者さんとのコミュニケーションに苦手意識がある看護師でも働きやすい職場といえます。
メリット③勤務時間にメリハリをつけやすい
一般刑務所であれば夜勤がなく日勤のみで働けます。
週休2日で祝日は休みになることが多いため、プライベートも充実しやすいことでしょう。
毎日決まった時間に規則正しく働けるため、子育てや介護をしている方でも両立させやすいです。
また、育児時短勤務や育児時間などの仕組みを取り入れている施設も少なくありません。
メリット④矯正医療の知識を深められる
医療刑務所は、総合病院のように幅広く専門的な治療を行う施設です。
そこで働く刑務所看護師は、看護師としてさまざまな経験を積むことができるでしょう。
また、刑務所看護師は矯正医療に深く携われるのも大きなメリットといえます。
矯正医療とは、被収容者が更生して社会復帰する過程を医療面からサポートすることです。
被収容者が抱える犯罪心理や、社会復帰への不安を理解しながら医療面でサポートすることは、一般病院では体験することができない貴重な経験といえるでしょう。
デメリット①失業手当は受給できない
国家公務員である刑務所看護師は、失業手当がもらえない点には注意が必要です。
国家公務員は雇用保険法の適用外とされ雇用保険に加入できないため、退職後も失業手当は出ません。
ただし、定年退職の場合、退職金はしっかり払われますので安心しましょう。
何らかの理由で途中退職する場合は、速やかに転職できるようにしましょう。
デメリット②医療刑務所は夜勤がある
一般刑務所は日勤のみで毎日決まった時間に働けますが、医療刑務所の場合は夜勤があることに注意しましょう。
医療刑務所には、一般刑務所では対応できない重篤な疾患を持つ被収容者が少なくありません。
そのため、総合病院のように24時間体制での看護体制を整えなければならず、夜勤も必要になるわけです。
子育てや介護を行っている場合は、自由がききにくいと感じるかもしれません。
デメリット③スキルアップを目指す場合、一般刑務所では物足りない
一般刑務所で刑務所看護師として働く場合、健康管理や簡単なケガの処置などの看護しか行いません。
これはいわば、学校の保健室と似たようなレベルの看護のみを行います。
そのため、看護師として将来のためにスキルアップしたいといった方にとっては、一般刑務所は物足りない環境といえるでしょう。
看護知識やスキル向上を求めるのであれば、一般刑務所でははく医療刑務所への勤務がおすすめです。
求人数は少ないが目的に合わせて働きやすい職場
刑務所看護師は、刑務所などで被収容者の健康管理やケガの手当などを行う看護師です。
刑務所で働くというと怖いイメージがありますが、刑務官が付き添いますので安全性は担保されています。
また、一般刑務所であれば毎日決まった時間で規則正しく働けるほか、子育て支援もあるため、子育てと両立したい人にとっては働きやすい環境といえます。
さらに、より高度な医療を行う医療刑務所であれば、看護師として幅広く知識やスキルを身につけられます。
スキルアップなどを目的とするならば、医療刑務所がおすすめです。
求人数は少ないものの、ご自身の目的に合わせて働きやすい環境があるのが、刑務所看護師の特徴です。
本記事でご紹介した注意点も参考にしながら、ぜひ目指してみてください。