便秘の種類と看護師の役割り。ケアやマッサージのポイントを解説
便秘は一度はなったことがある方も多いかと思いますが、病気を疑う方はあまりいません。
便秘には、原因ごとにさまざまな種類があります。
そのため、患者ごとの状態を把握したうえで、正しいケアをすることが大切です。
本記事では、便秘の種類や判断基準、便秘の患者に対して看護師が行う役割り、具体的なケアの内容などをご紹介します。
目次
便秘の基本知識
便秘とは、排便の量や回数が少なく、十分な量を快適に排出できない状態のことを指します。
排便できる場合でも「毎日硬い便が出る」「残便感や不快感がある」といった場合、便秘とされます。
以下では、便秘の種類について紹介していきます。
器質性便秘
器質性便意とは、腸に物理的な問題があり、便の通過が阻害されることで引き起こされる便秘症のことです。
たとえば、腸に腸壁が癒着している、炎症が起きているといった場合、便がスムーズに通れない器質性便秘とされます。
大腸がんやクローン病などによって大腸が狭窄する「狭窄性」の器質性便秘、狭窄以外の特徴的な形態変化がある「非狭窄症」の器質性便秘があります。
非狭窄症は、さらに2つに分類することができます。
- 排便回数減少型:大腸が著しく拡張することで機能が低下し、便の動きが阻害されて排便回数が減るタイプ
- 排便困難型:直腸がんなどによって直腸の形態が変化することで、便の排出が困難になってしまうタイプ
機能性便秘
機能性便秘とは、排便に関わる大腸・直腸・肛門の機能が低下することが原因の便秘です。
生活習慣や食事、運動不足、ストレス、加齢、薬剤などが影響して引き起こされます。
機能性便秘は、以下の種類に分類することができます。
- 弛緩性便秘:高齢者に多い便秘で、大腸の筋肉が弛緩して蠕動運動が弱まることで引き起こされる便秘
- 痙攣性便秘:強いストレスを受けやすい人に多い便秘で、自律神経の乱れによって蠕動運動が不規則な状態になってしまい、便の動きが悪くなり引き起こされる便秘
- 直腸性便秘:排便を我慢し続けてしまった人に多い便秘
排便を我慢する習慣があると、排便感覚は鈍くなってしまいます。
そのうえで、下剤などで排便することが多い場合、直腸の神経はさらに鈍化します。
こうした状況が続くと、直腸性便秘になってしまいます。
症候群性便秘
女性に多い便秘で、月経や妊娠によるホルモンバランスの変化が影響して引き起こされます。
また、糖尿病などの基礎疾患によって蠕動運動が弱まり、症候群性便秘になることも少なくありません。
薬剤性便秘
使用している薬剤の影響によって蠕動運動が抑制されてしまい、その結果として引き起こされる便秘です。
抗うつ薬や鎮痛薬、抗がん剤などを使用している方は薬剤性便秘になりやすい傾向にあります。
便秘の判断基準・観察項目
排便回数は、便秘であるかどうかを見極める判断基準のひとつです。
しかし、排便回数には個人差があるため、それだけでは便秘かどうかを確実に判断できません。
そのため、以下のような項目を観察して便秘かどうか判断します。
- 既往歴や内服歴
- 便の性状(硬さ・色・形・量)
- 腹部の状態(お腹のはり具合など)
- 便秘に伴う症状(膨満感や嘔吐感)
- 食事や水分摂取量
- 1日の活動量
- 患者のご家族からの声(本人に吐き気があるようだ、など)
看護計画
看護計画では、「観察計画(OP)」「ケア計画(TP)」「教育計画(EP)」をそれぞれ書いていきます。
観察計画(OP)
観察計画では、排便回数や量、腸の蠕動音やお腹の硬さなど、患者を観察するうえでのポイントを記載します。
患者やそのご家族から聞き取りをして、嘔吐感があるか、精神的ストレスがあるか、排便習慣はどうかなどについても観察します。
また、排便は誰にとっても恥ずかしいものです。
看護するうえで、遠慮や羞恥心をどう取り除くかも検討しなければいけません。
ケア計画(TP)
看護師が便秘の患者に対してどのようなケアを行うか、その計画を記載します。
たとえば、腹部や腰背部の温罨法の実施、トイレまでの歩行見守り介助の仕方、患者が安心・落ち着いて排便できる環境づくりの方法などについて書いていきます。
教育計画(EP)
看護師から患者に対して、便秘症状の緩和のために行う教育計画を記載します。
たとえば、「朝食後に蠕動運動が起こりやすい」「我慢すると便意を感じにくくなる」ことを伝えた上で、「朝食後などの決まった時間にとりあえず排便する習慣をつけると良い」といった提案の流れを書きます。
また、便意があればすぐに看護師を呼ぶ、気づいたときに腹部マッサージで腸蠕動を促すといったポイントについても書いておくとよいでしょう。
看護計画書の書き方
排便は人によって特徴がさまざまです。
そのため、便秘の看護計画書は排便についての基本的な情報はもちろん、患者に何が起きているのか、なぜそれが起こっているのか、このままだとどうなるのか、そして患者にできるケアはどのようなことかを考えて書いていくことが大切です。
つまり、便秘の看護計画書は、患者に合わせてカスタマイズすることが大切です。
排便の情報収集
まずは、患者の排便状態を正しく理解することが大切です。
たとえば、「排便回数が少なく感じる」という情報では、患者の排便状態を把握できます。
嘔吐や強い腹痛があるのであれば、腸の病変が推測できるでしょう。
また、聴診すれば腸蠕動音がわかりますし、排便動作によって便を押し出す力が足りているかが分かります。
このように、さまざまな角度から患者の排便について情報を収集することが、第一歩となります。
情報の分析
収集した情報から、患者の便秘に関する情報を分析していきます。
その際、複数の情報から正しい分析をすることが大切になります。
たとえば、5日間排便がない患者が2人いたとして、「どちらも便秘である」とすぐに判断するのは早いです。
「Aさんは毎朝排便があった」「Bさんは健康なときから週に数回の排便だった」という情報があったとすれば、Aさんは便秘の可能性が高まりますが、Bさんは普通の状態の可能性があります。
このように、排便は個別性の高いものであり、ただ排便がないからといって便秘とはいえません。
収集したあらゆる情報を組み合わせて分析することが大切です。
人それぞれにあった看護計画書の作成
便秘の看護計画は、患者それぞれに合わせなければいけません。
例えば、便秘の解消法として「腹部のマッサージ」は、腸蠕動を促す有効な方法であると一般的に考えられています。
しかし、腫瘍が原因で器質性の便秘になっている可能性もあります。
そのような患者に無理にマッサージを施せば、強い痛みや嘔吐感を与えてしまうことになるでしょう。
そのため、排便情報を収集しそれを正しく分析した上で、患者に適した看護介入ができる計画を立てることが大切です。
便秘の看護ケア
便秘は、成人はもちろんですが、高齢者や小児で多くみられやすい症状です。
しかし、排便ペースは人それぞれで違いがあり、小児と高齢者では原因が異なることが多いです。
そのため、患者に合ったケアをすることが大切です。
高齢者への対処
高齢者は、便の元となる食事量が減り、排泄を行うための筋力が低下しているため、便秘になりやすくなっています。
食事や筋力に問題がない場合でも、直腸の感覚が鈍化していることも少なくありません。
また、基礎疾患や薬剤による影響、さらには大腸がんなど腸に障害があることで、器質性便秘になっているケースもあります。
近年、便秘が慢性化すると腎臓病を発症しやすくなるともいわれています。
また、便秘だからといって強くいきんだせいで、心臓に負担がかかってしまうこともあるようです。
つまり、便秘は生命に関わることにもつながりかねないということです。
こうしたことを踏まえ、患者ごとに便秘の原因をしっかり把握して、それぞれにあった便秘の看護ケアをすることが大切です。
小児への対処
小児で便秘が起こりやすいのは離乳食への切り替わり、トイレトレーニングの開始、小学校へ通い始めるなどのタイミングです。
つまり、小児の場合は腸疾患によるものというより、食生活や環境の変化、ストレスが大きく関わっているケースが多くみられます。
小児の便秘における看護ケアでは、小さい子供の気持ちに寄り添い、小さな目標を立てて排便に関する成功体験を積ませることが一つのポイントになります。
ただし小児でも、外科的疾患や内科的疾患によって便秘が引き起こされることもあります。
情報収集と分析を行い、患者それぞれにあった看護ケアを行いましょう。
自然排便を促す「腹部マッサージ」
腹部マッサージとは、便秘で悩む患者のお腹をマッサージし、自然な排便を促すケアのことです。
腸管の筋肉を弛緩させ、血液循環を良好にすることで蠕動運動の亢進を目指します。
また、腹部膨満感の緩和やリラクゼーション効果なども期待できます。
腹部マッサージの方法
腹部マッサージは患者が仰向けになり膝を立て、リラックスしてもらいます。
そしてお臍の周りを時計回りに3~5回程度優しくさすり、左下腹部を両手で軽くマッサージします。
さらに便の働きを促すため、腹部をさすり、お臍周辺を振動させます。
便秘の場合、S状結腸に便がたまりやすいので、手のひらを使いながらゆっくり押します。
腹部マッサージの注意点
腹部に疾患がある、腸閉塞の既往歴がある、大動脈瘤があるといった場合は腹部マッサージをしてはいけません。
また、器質性便秘の場合も行うべきではありません。
もしマッサージ中に問題ある痛みを訴えるようならば手をとめ、医師に報告しましょう。
便秘の原因に合わせた看護ケアを行いましょう
便秘は患者ごとに、原因や症状に違いがあります。
そのため、患者それぞれにあった看護ケアをすることが大切です。
特に高齢者の場合は、さまざまな原因で便秘になります。
情報収集と分析をしっかり行い、患者ごとにカスタマイズして看護計画書の作成や看護ケアを行いましょう。